2016年4月26日火曜日

技と工夫のアーカイブ29 『空を眺める家』 〜理想の空調を求めて〜

『空を眺める家』 竣工:平成28年2月

エアコンは冷房には適していますが、暖房には不向きです。最近のモデルは暖房性能に特化したものもありますが、東北の真冬ではまだ力不足のような気がします。
なぜエアコンは暖房に向かないのか、それは暖かい空気は上へ上へと上昇するから。エアコンは部屋の天井近くに設置されるので、物理に抵抗して暖かい空気を床近くまで届けるには相当なエネルギーを必要とするのです。

この理屈に沿って考えれば、エアコンは床近くに設置すれば部屋全体を暖めてくれるはずで、そう考え工夫したのがこの住まいの1階に導入した空調プランです。
天井近くに設置されることが多いエアコンを床近くに設置し、さらに暖房熱を床下に送り込めるように送風口を設けました。これにより暖房熱は床下を通り、1階の各部屋に設けられた床下換気口から暖房熱が届くようになるというわけです。

もちろんこれが理想の暖房というわけではありません。熱源に近い場所はすぐに暖まるが、遠い部屋ほど暖まりにくいという問題はあります。また条件として床下は外部から冷気が侵入しないよう密閉されていなければなりません。またエアコンをそのまま床近くに設置したのでは保全の問題もあるし見た目も悪い。そこで棚としても使えるようボックスで覆いデメリットをなくしました。

スキップフロア、スノコ床、そして越屋根など、創では理想の空調を求め様々な工夫をしてきましたが、エアコン熱を床暖房に利用するというこのアイディアもそうした工夫の一例です。より少ないエネルギーで最大の空調効果を得るために、これからも色々なアイディアを取り入れていきたいと考えています。


2016年4月19日火曜日

技と工夫のアーカイブ28 『空を眺める家』 〜広くする工夫〜

『空を眺める家』 竣工:平成28年2月

狭い敷地。隣家が密集する。それゆえに日当たりも悪い。そんな弱点だらけの環境をどう克服し、住まいに光と風と開放感をもたらすか。課題の多い家でしたが、それだけに大きなやりがいがありました。



敷地の広さは限られているが、駐車スペースは確保しなければならない。そこで最初に考えたのはビルトインガレージです。これなら駐車に問題ないし、クルマも大事にでき、外収納のスペースも確保できる。しかし問題は1階の床面積が狭くなること。そこで居住スペースは2階にまとめるようにしました。すると、だんらんの間などの居住スペースを1階にする場合では難しかった日当たりと開放感を確保できました。だんらんの間で、南東に開けるコーナー窓からの眺めは開放感抜群です。

さらに2階を広く見せるのに役立ったのがスキップフロアです。
つまり一部の居室と他の床面の高さを変えること。すると空間に立体感が生まれ、視界の幅が上下に広がることから、空間を広く見せることができました。
実はこのスキップフロアのアイディアは、ビルトインガレージの上の部屋の断熱性能を確保するために考えたものですが、部屋の広さを生むメリットも生まれたのです。

そして通風と採光のためには、何度か採用しているスノコ床のロフトと越屋根を設けました。
完成時には見学会を開催、多くの方々にご来場いただきましたが、木組みの家は設計の自由度も高いことを実感していただけたと思います。








2016年4月14日木曜日

技と工夫のアーカイブ27 『ひかりを紡ぎ進む家』 〜神棚〜

『ひかりを紡ぎ進む家』 竣工:平成27年12月


ホームページで「スプーン1本から棚板まで…」とうたっているように、創では木でできる住まいに関するものは何でも作ります。もちろん手の込んだ造作物も得意で、その最たるものが神棚の造作です。



ハウスメーカーの住まいに限らず最近の住まいでは神棚を設けない家もあるようですが、石巻地方では神棚を必要とする方が多くいます。特に沿岸部にお住いの方や浜育ちの方にそう考える方が多いのは、信仰が生業と密接に関わっているからなのでしょう。信仰が厚ければその分造りへのこだわりも強くなり、神棚も単に設置する場所を作るだけでは済まなくなります。

この家の建て主は浜仕事とは関係ありませんが、信仰心が厚く、また家自体に負けない神棚を造りたいということから、本格的な神棚を造りました。雲形を施した斗栱や肘木は社寺建築に用いられる意匠で、軒組などとともに棟梁が手仕事で造り上げました。



その存在感は一眼にするだけでも圧倒的ですが、細部に目をこらすと造作の繊細さに驚かされます。
これなら住まい手の厚い信仰心もしっかり受け止められ、祀られる神様もさぞかし居心地が良いだろうと安心できます。


2016年4月6日水曜日

技と工夫のアーカイブ26 『ひかりを紡ぎ進む家』 〜月見台〜

『ひかりを紡ぎ進む家』 竣工:平成27年12月






ベランダでも物干し台でもなく、日当たりはいいけど、日向ぼっこをするためでもない。
あえて月見台。

目の前まで山が迫り、周囲には数軒の家があるだけ。街灯も少ない。夜は闇が広がり月が昇れば稜線の杉木立を浮かび上がらせる。
へぇ、月はこんなに眩しく、星はこんなにキラキラしているんだ、と夜空の美しさを堪能させてくれる最高の環境。
せっかくだから、その美しさを満喫する場所をつくろうと考えたのがこの月見台です。

月見台といえば京都桂離宮の古書院のが有名。手摺はなく床面だけの構造になっているのは、そこに座った時、月の昇り始めから中天に昇るまで、手摺などに邪魔されることなく眺められるようにするためという。そしてそれは、中秋の名月が正面に見える角度に配置されているのだとか。

現代の建築基準法では手摺を省くことはできないが、観月の妨げにならないよう、手摺は極力低く。だから立ったままではどこか落ち着かない。やはりどっしり座って、のんびり月夜を楽しむのがいい。

もちろん夏にはごろりと横になって夕涼みもいい。でも虫刺されには注意してくださいね、施主さん。