2016年10月26日水曜日

ヒノキはすごい

いよいよストーブの季節がやってきました。

薪ストーブ愛好家にとってシーズン初の火入れは楽しみの時ですが、その一方で薪の問題も気にしています。
マメな人は数シーズン分をストックしていますが、涼しくなってから慌てて準備に入る人もいます。私は後者です。

そんなわけで、先日、創の現場から残材をいただいてきました。
建築の残材なので、杉やヒノキの板材など細かいものが多いのですが、ストーブ着火時にはとても重宝します。

カゴいっぱいに板材や角材を積み込み、車に乗ると、改めて気づいたことがあります。
それは新材の香りの心地よさです。
車内は密閉されるし、気づかないうちにイヤな臭いがこもりますが、それが一気に解決。清々しい空気に満たされました。

中でも素晴らしいのがヒノキの効果です。
ヒノキの香りはよく知られていますが、それには抗ウィルス、抗菌作用があるほか、緊張やストレスの緩和、メンタル面のリフレッシュ効果もあるそうで消臭剤に最適。市販の芳香剤のような不自然さもなく、断然オススメです。

香りが弱くなってきたら、ノコギリの刃を少し入れれば、また強い香りがします。
そんなわけで、クルマにヒノキの残材を積んでいます。おかげでドアを開けるたび清々しい香りがします。

試してみたいと思う方は、創までお問い合わせください。
残材が出るタイミングで、足を運んでくれればお分けします。





2016年10月20日木曜日

どうちらにしますか?


あっちを立てればこっちが立たない。
とかく家づくりは、どこまで進んでもどっちを選ぶかという選択が付いて回る。
いま、家づくりを進めている方も、過去にした方もそう思うのではないでしょうか。

わかりやすい例でいうと、土地選びがそうです。
利便性を選ぶか、または自然環境を選ぶか。
もちろん尺度は人それぞれなので標準化するのは難しいですが、土地選びではどちらを重視するかという状況に直面するでしょう。

もう少し進んだ段階の例を挙げると、プライバシーと解放感や熱効率のどちらを重視するかという問題も生まれてきます。

間取りを考える場合、家族ぞれぞれのプライバシーを重視するなら個室を壁で仕切ればいいのですが、すると、解放感や熱効率は悪くなります。
ですが、居室の仕切りをなくすと解放的になるけれど、宅内の音問題も発生してきます。

創で使う断熱材「セルロースファイバー」は、気密と断熱に優れ、同時に防音性にも優れます。つまり宅内の音を外に漏らさず、外の騒音も室内に伝えにくい。
ですが、防音性が高いゆえに宅内の音が響きやすいという状況になります。
開放的で、熱効率のために間仕切りを少なくしたけど、家族の生活音が思った以上にうるさくて落ち着かないということにもなりかねないのです。

というわけで、家づくりはいろんな角度からじっくり考えることが必要です。
または家づくりを済ませた先輩たちに聞いてみるのがベストかもしれません。



2016年9月27日火曜日

床の間のこと


前回に続き、和室のことを考えてみます。

昔の家には必ずあった床の間のことです。
最近は人気がありません。木組みの家を得意とする創でも、あまりオーダーを受けることがありません。

理由はスペースを必要とするから。また仰々しいから。そして和の雰囲気が強くなってしまうからでしょう。機能的な空間ではないだけに、いらないと言われれば強く勧める理由も見つけづらいのです。しかし、様式に沿ってつくれば和室はぐっと格調高いものになるはずです。

床の間の飾り方の基本は、壁中央に掛け軸を飾り、床は左に花立、真ん中に香炉、右に燭台を置きます。このルールは、和室の原型である書院造が、鎌倉時代の僧侶の書斎兼居間だったことに由来するんだそうです。
また祝い事がある場合、物の配置で気分を表現する手法もあるそうです。

ちなみに和室には方向があることも覚えておきましょう。
床の間に対し畳の短辺が当たるように敷くのはNG。「床挿し」といって、切腹を連想させるので忌み嫌われます。または床の間に向かって正座した場合、畳の目と床の間が平行だと立ち上がるときに膝が滑らず動作も滑らかでなくなるという理由もあるそうです。

やはり和室をつくるなら、様式をしっかり知っておきたいですね。



2016年9月26日月曜日

どうする和室


お宅に和室はありますか?
これからの方、和室はつくりますか?

と、ここで、これからの方に大胆な提案です。
「あれば使うかも」とか「雰囲気がいいから」とか「見栄え的に」、
といった積極的でない理由で和室をつくるつもりなら、いっそ和室はやめませんか?

いえいえ、和室をなくしたほうがいいというのではなく、むしろ和室をちゃんとしたほうがいいと思うのでこんな言い方をしました。

よくマンションなどで洋室と和室が続き間になっています。他に寝室がないなら仕方がないとして、洋室と和室をつなげるなんて、ほとんど意味がないように思われます。
また戸建でも、配置をあまり考えず客間として和室をつくっても、ほとんどが物置部屋になったりします。

こうした原因がどこにあるかというと、和室をちゃんと落ちつける空間にしてないからだと思います。
では和室を落ちつきのある空間にするにはどうすればいいか。

まず、和室にカーテンはやめましょう。やはり障子です。目的に合わせ、月見障子か雪見障子を選ぶのも大切です。
次は照明。天井の照明はやめて床置きにするのがオススメです。その方が断然落ち着いた雰囲気になります。

そして、配置はなるべく家の奥にした方がいいでしょう。「奥に通す」と言いますが、言葉通りにした方が落ち着きが増します。
また、入り口も襖が全開になるようなオープンタイプではなく、半間幅くらいで奥の方にある方がいいでしょう。茶室のにじり口の考え方です。

やはり和室は、家の中でいちばん落ち着く空間であるべきです。
つくるならその役割を存分に発揮させましょう。




2016年9月21日水曜日

再びテーブル問題 


前回は、ダイニングテーブルと椅子の「差尺」について紹介しましたが、じゃあ、テーブルの大きさはどうすればいいのか?

いちばん多く見かけるのは4人用のテーブルですが、その大きさは約1500mm×800mmくらい。6人用となると約2100mm×900mmくらいが一般的なようです。

ちなみに食事のために必要なスペースは、ひとりあたり幅600mm、奥行き800mm程度と言われます。二人並べばそれだけで幅は1200mm。幅1500mmのテーブルでは300mmの間隔ができる計算ですが、食卓には各々の茶碗や皿だけでなく、大皿も並ぶし、調味料も置かれます。そして何より、人により体格が違うし、動き方も様々です。
つまり4人だから1500mm幅のテーブルでOKではなく、最低1500mmなければならないと考えましょう。

と、ここで提案ですが、ダイニングテーブルを食事のためだけに使うのではなく、多目的に使うことを考えて、極力大きなテーブルにするのはどうでしょう。

4人家族だけど、テーブルは8人用にするとかです。
家族みんな肩寄せ合っての食事もいいですが、4人ギリギリのスペースで食べるより、ゆとりがあった方がゆっくり落ち着いて食事ができるはずです。

また、毎日家族が揃って食卓を囲むとは限らず、遅く帰ったお父さんが食事する側で、子供が宿題をしたりなんてこともあるはずで、そんな時は大きなテーブルの方が好都合なはずです。あるいはケンカしたばかりで並んで食事するのが気まずいなんて時にも便利です。

もちろんテーブルを大きくするには、それに見合う空間が必要です。
敷地に余裕があれば問題ないでしょうが、様々な制約の中で快適な家にするためには、あれこれ揃えようとしたり固定概念に縛られず、自分たちがどう暮らしたいかを考え、どこかに際立った特徴をもたせた方がいいかもしれません。




2016年8月24日水曜日

快適な食卓のために



家を新築するといろんな家具を新調しますが、選ぶときに特に気合が入るのがダイニングのテーブルと椅子ではないでしょうか。

ほぼ毎日使用し、家族みんなが同時に使い、体を預けるもの。
タンスに体を預けることはないし、ベッドはパーソナルなものだし、ソファ一つに家族同時に座ることはありませんが、ダイニングセットには様々な要求が課せられます。
だからダイニングテーブルと椅子選びはぜひ慎重に取り組みたいのです。

テーブルと椅子のセットを選ぶ場合、座って違和感がなければ問題ないでしょうが、テーブルだけを新調したり、テーブルと椅子を別々に揃える場合はそれぞれの高さが合っているかをチェックしなければなりません。

このテーブルの高さと椅子の座の高さの差は「差尺」と言いますが、この差はダイニングテーブルであろうと座卓であろうとほぼ一定で、270mm前後が快適に食事できる差尺と言われます。

差尺が300mm以上になると背伸びして食事しなければならない感じになるし、250mm以下になると窮屈になる。もちろんそれぞれの体格によっても微妙に異なりますが、快適な食卓の差尺は270mmくらいと覚えておけば間違いないでしょう。

写真のテーブルは創オリジナルのダイニングテーブルです。脚は鉄で造り、天板はタモの集成材にしましたが、天板は他の材料を使うこともできます。
また、石巻出身の家具作家がつくる『木のしごと樹々』のテーブル、椅子のオーダーもお受けしています。テーブルと椅子の高さも指定できるので使いやすさは折り紙付きです。






2016年8月3日水曜日

霧除け庇の役割


先日、創のブログで霧除け庇の仕上げについて紹介しましたが、今回は霧除け庇のそもそものあり方を考えてみたいと思います。

そもそも庇は、建物を雨や陽射しから守るためにあります。屋根や軒ほど構えは大きくなく、大きさや形によって呼び名も様々ですが、窓の上に設ける小さな庇は「霧除け庇」と呼ばれます。
最近のハウスメーカーの家ではほとんど見かけないし、あまり目立たないので必要なのかと思いがちですが、調べてみると予想以上に重要な役目を持っていることがわかります。

創の家で最も多く用いられる霧除け庇の大きさは、壁面から先端までの出寸法で約200mm。これによりどんな効果があるかというと、太陽高度が最も高くなる夏至の時で、庇から約1100mm下まで陽射しを防ぐ効果があります。つまり一般的な大きさの腰窓をカバーするくらいの日除け効果があるのです。
これは雨の場合でも同じです。窓に叩きつけるような風雨ではそうはいきませんが、小雨なら確実に雨を避けてくれます。

霧除け庇の効果を最も実感するのは、窓の汚れを防げることでしょうか。
窓の下部分では汚れが目立っても、庇の真下、窓の上部分は汚れていなかったりします。




さて、この「霧除け庇」は、別に「眉庇(まびさし)」とも呼ぶそうです。
その名は武将の兜の一部分に由来するそうで、額のあたりに位置するつばをそう呼ぶそうです。ちょうど眉のように見えるからでしょうか。同じように家にとっても「霧除け庇」は、家の顔立ちを整える重要なアクセントとしての役割もあるのです。





2016年7月22日金曜日

窓の役割


窓には大きく分けて3つの役割があります。
「視認」と「通風」と「採光」です。

「視認」は屋内から外の様子がわかるようにすること。したがって取り付け位置は目線が届く高さで、透明でなければなりませんが、開閉は絶対ではありません。つまりはめ殺しの窓でもOK。注意しなければならないのは外部との位置関係です。大窓を設けたものの隣家で風景が遮られたり、あるいは開放性はあるが、外から屋内が丸見えになるのはNG。

「通風」は文字通り風を通すこと。取り付け位置は目線と関係しなくてもOKで、透明である必要もなく、ガラスでなければならないわけでもありません。絶対なのは開閉できること。「はめ殺しの通風窓」というのはありえないわけです。

「採光」は太陽光を効率よく室内に取り込むことです。開閉の可否は問われませんが、注意しなければならないのは、「視認」と同様に外部との位置関係と程度をしっかり把握することです。つまり室内を明るくしたいがために透明の大窓にしても、西日が照りつける位置に取り付けてはまぶしすぎるというわけです。


この3つの役割を知った上で、窓をどう設計するか。
まず「視認性」を高めるためには外部との関係性を把握し、可能な限り大きな窓にすれば開放的になります。
「通風」と「採光」を確保するために重要なのは取り付けの位置です。
窓というと目線の高さにあるべきものと考えがちですが、「通風」「採光」のためにはむしろ高い位置か低い位置にした方がいい場合があります。

例えば夏場の通風を考えた場合、暖かい空気は上昇するので、通風窓は高い位置にあった方が効率的です。また高い位置に採光」のための窓を設けると、屋内全体に光が回り、明るい室内にすることができます。

こうして考えてみると、窓の設計がおろそかでしっかり役割を果たさせていない家が多いような気がします。言い換えれば目的に応じて窓を設計すれば住まいの快適性は増すということ。

夏は開け閉めしたり陽射しを気にしたりと、何かと窓の存在が気になる季節です。
これから家づくりをお考えなら、ぜひ窓の役割について考えてみてください。



2016年5月26日木曜日

技と工夫のアーカイブ32 『静かな光が差し込む家』 〜間仕切りの効果〜

『静かな光が差し込む家』 竣工:平成28年5月





南に大きな建物が隣接しています。そのため開放感のある東側の開口を大きくしました。
とはいえ日が回ると採光は弱くなります。そこで考えたのが1階だんらんの間の上に2階は上げず、部屋の中央に天窓を設けること。これにより「だんらんの間」では、南面からの日差しは望めなくても真上から明るい日差しが差し込みます。

もう一つの工夫は、だんらんの間とは独立したダイニングにも明るい日差しを呼び込むこと。ここには2階が上がりますが、階段ホールと連続した吹き抜け、さらに2階廊下の一部をスノコ床にしたことで日差しと風通しを良くしました。

高齢のおばあさんが暮らすこの家では、寝室のほかにくつろげる畳の間が欲しいと要望がありました。そこでだんらんの間に連続して3畳大の畳の間を設けました。
これによりだんらんの間、畳の間、そしてダイニングは適度に仕切られるようになり、空間構成にメリハリが生まれました。
間仕切りをなくしフラットな空間にすれば広々しますが、落ち着きのある空間にするなら適度な仕切りを設けた方が効果があります。







2016年5月19日木曜日

技と工夫のアーカイブ31 『静かな光が差し込む家』 〜弱者の視点で家づくり〜

『静かな光が差し込む家』 竣工:平成28年5月



家づくりは、そこに住む人の中で最もハンデのある人の立場で考えなければなりません。高齢で足腰に不安があるならその人が生活しやすい間取りにする。それに倣えばこの家の主役は90代になるおばあさんで、おばあさんが暮らしやすいように動線と間取りを考えました。

おばあさんの寝室はこの家で最も日当たりの良い南東に向くようにしました。そこは玄関を入って最初の居室です。ですから外とのアクセスが便利。また家族が過ごす「だんらんの間」も隣なので行き来しやすい。おまけに「だんらんの間」とは広々としたウッドデッキを介してもつながっているので開放的かつ動線も機能的にしています。

トイレ、お風呂は玄関を挟んで1階の北側にありますが、おばあさんの寝室から最も近く安心です。そしてキッチンは廊下を挟んで西側に、その南隣にダイニングを設けました。

間取り図があればわかりやすいのですが、この家の動線はおばあさんの寝室を軸に、「だんらんの間」とダイニング、キッチンを周回できるようになっているのです。足腰に不安があるのでできるだけ短い距離で必要な場所へ行けるようにしよう。そうした考えで間取りを考えたことで機能的な家になりました。







2016年5月6日金曜日

技と工夫のアーカイブ30 『自分たちの風景のある家』 〜中庭〜

『自分たちの風景のある家』 竣工:平成28年4月


石巻では復興工事が盛んに進められています。沿岸地域でかさ上げ工事が終わったら、風景はどんな風に変わるのでしょうか。現在、かさ上げ工事と同時進行で住宅の新築工事も目立っていますが、何しろどんな街並みになるかわからないので、都市計画をしっかり読み解き、完成後の風景を想像しながら家づくりを進めなければなりません。

この住まいでは敷地の目の前にかさ上げ道路が通る計画になっているので、普通に通りに開けた家構えにすると、通りから家が見下ろされるようになってしまいます。
通りからの視線を遮り、見下ろされる不快感をなくすこと。そして明るい日差しを確保すること。そんな課題を解決するために生まれたのが中庭を設けることでした。これなら通りからの視線を感じずに済み、自分たちだけの風景を楽しめるというわけです。

中庭のデッキは室内と床面の高さを揃えたので、中庭も室内と同じように使えます。そして一歩中庭に出て見上げれば、家族だけが楽しめる空があるというのは実に贅沢。真ん中に植えたシンボルツリーもさらにゆとりを感じさせます。

私どもが手がけた家では初めての中庭のある家。次にまた似たような敷地条件の家を手がけることがあったら、この経験を応用してそこで最善の家を建てたいと思います。


2016年4月26日火曜日

技と工夫のアーカイブ29 『空を眺める家』 〜理想の空調を求めて〜

『空を眺める家』 竣工:平成28年2月

エアコンは冷房には適していますが、暖房には不向きです。最近のモデルは暖房性能に特化したものもありますが、東北の真冬ではまだ力不足のような気がします。
なぜエアコンは暖房に向かないのか、それは暖かい空気は上へ上へと上昇するから。エアコンは部屋の天井近くに設置されるので、物理に抵抗して暖かい空気を床近くまで届けるには相当なエネルギーを必要とするのです。

この理屈に沿って考えれば、エアコンは床近くに設置すれば部屋全体を暖めてくれるはずで、そう考え工夫したのがこの住まいの1階に導入した空調プランです。
天井近くに設置されることが多いエアコンを床近くに設置し、さらに暖房熱を床下に送り込めるように送風口を設けました。これにより暖房熱は床下を通り、1階の各部屋に設けられた床下換気口から暖房熱が届くようになるというわけです。

もちろんこれが理想の暖房というわけではありません。熱源に近い場所はすぐに暖まるが、遠い部屋ほど暖まりにくいという問題はあります。また条件として床下は外部から冷気が侵入しないよう密閉されていなければなりません。またエアコンをそのまま床近くに設置したのでは保全の問題もあるし見た目も悪い。そこで棚としても使えるようボックスで覆いデメリットをなくしました。

スキップフロア、スノコ床、そして越屋根など、創では理想の空調を求め様々な工夫をしてきましたが、エアコン熱を床暖房に利用するというこのアイディアもそうした工夫の一例です。より少ないエネルギーで最大の空調効果を得るために、これからも色々なアイディアを取り入れていきたいと考えています。


2016年4月19日火曜日

技と工夫のアーカイブ28 『空を眺める家』 〜広くする工夫〜

『空を眺める家』 竣工:平成28年2月

狭い敷地。隣家が密集する。それゆえに日当たりも悪い。そんな弱点だらけの環境をどう克服し、住まいに光と風と開放感をもたらすか。課題の多い家でしたが、それだけに大きなやりがいがありました。



敷地の広さは限られているが、駐車スペースは確保しなければならない。そこで最初に考えたのはビルトインガレージです。これなら駐車に問題ないし、クルマも大事にでき、外収納のスペースも確保できる。しかし問題は1階の床面積が狭くなること。そこで居住スペースは2階にまとめるようにしました。すると、だんらんの間などの居住スペースを1階にする場合では難しかった日当たりと開放感を確保できました。だんらんの間で、南東に開けるコーナー窓からの眺めは開放感抜群です。

さらに2階を広く見せるのに役立ったのがスキップフロアです。
つまり一部の居室と他の床面の高さを変えること。すると空間に立体感が生まれ、視界の幅が上下に広がることから、空間を広く見せることができました。
実はこのスキップフロアのアイディアは、ビルトインガレージの上の部屋の断熱性能を確保するために考えたものですが、部屋の広さを生むメリットも生まれたのです。

そして通風と採光のためには、何度か採用しているスノコ床のロフトと越屋根を設けました。
完成時には見学会を開催、多くの方々にご来場いただきましたが、木組みの家は設計の自由度も高いことを実感していただけたと思います。








2016年4月14日木曜日

技と工夫のアーカイブ27 『ひかりを紡ぎ進む家』 〜神棚〜

『ひかりを紡ぎ進む家』 竣工:平成27年12月


ホームページで「スプーン1本から棚板まで…」とうたっているように、創では木でできる住まいに関するものは何でも作ります。もちろん手の込んだ造作物も得意で、その最たるものが神棚の造作です。



ハウスメーカーの住まいに限らず最近の住まいでは神棚を設けない家もあるようですが、石巻地方では神棚を必要とする方が多くいます。特に沿岸部にお住いの方や浜育ちの方にそう考える方が多いのは、信仰が生業と密接に関わっているからなのでしょう。信仰が厚ければその分造りへのこだわりも強くなり、神棚も単に設置する場所を作るだけでは済まなくなります。

この家の建て主は浜仕事とは関係ありませんが、信仰心が厚く、また家自体に負けない神棚を造りたいということから、本格的な神棚を造りました。雲形を施した斗栱や肘木は社寺建築に用いられる意匠で、軒組などとともに棟梁が手仕事で造り上げました。



その存在感は一眼にするだけでも圧倒的ですが、細部に目をこらすと造作の繊細さに驚かされます。
これなら住まい手の厚い信仰心もしっかり受け止められ、祀られる神様もさぞかし居心地が良いだろうと安心できます。


2016年4月6日水曜日

技と工夫のアーカイブ26 『ひかりを紡ぎ進む家』 〜月見台〜

『ひかりを紡ぎ進む家』 竣工:平成27年12月






ベランダでも物干し台でもなく、日当たりはいいけど、日向ぼっこをするためでもない。
あえて月見台。

目の前まで山が迫り、周囲には数軒の家があるだけ。街灯も少ない。夜は闇が広がり月が昇れば稜線の杉木立を浮かび上がらせる。
へぇ、月はこんなに眩しく、星はこんなにキラキラしているんだ、と夜空の美しさを堪能させてくれる最高の環境。
せっかくだから、その美しさを満喫する場所をつくろうと考えたのがこの月見台です。

月見台といえば京都桂離宮の古書院のが有名。手摺はなく床面だけの構造になっているのは、そこに座った時、月の昇り始めから中天に昇るまで、手摺などに邪魔されることなく眺められるようにするためという。そしてそれは、中秋の名月が正面に見える角度に配置されているのだとか。

現代の建築基準法では手摺を省くことはできないが、観月の妨げにならないよう、手摺は極力低く。だから立ったままではどこか落ち着かない。やはりどっしり座って、のんびり月夜を楽しむのがいい。

もちろん夏にはごろりと横になって夕涼みもいい。でも虫刺されには注意してくださいね、施主さん。




2016年3月24日木曜日

技と工夫のアーカイブ25 『新しさが薫る家』 〜照明のこと〜

『新しさが薫る家』 竣工:平成27年11月





創の住まいでは間接照明を多く使います。ペンダントライトを使うのはだんらんの間や和室くらいで、それ以外の直接照明はダウンライト。残りは間接照明です。
さらに直接照明でも白昼色の蛍光灯はほとんど使わず電球色を使います。最近は電力消費量が少なく長寿命なLEDのオーダーが多くなっていますが、それでも電球色を使います。
理由はそれが好みだからなのですが、木の家の落ち着いた趣には温かみのある明かりが似合うと思うからです。

この家では引き込み障子が備わる掃き出し窓の上部に間接照明を仕込みました。照明自体は障子枠に隠れるので点灯しなければ照明があることはわかりませんが、夜にはぼんやりした明かりが白漆喰の壁と木の美しさを際立たせ、天井近くを照らすことから空間の広がりを強調します。

聞いた話では、快適な睡眠のためには昼夜とも同じ光量の環境で過ごすより、就寝時間に近づくに従って光量を落とすのが理想なのだそうです。
夜の室内にも昼と同じ明るさを求め調光するより、夜には夜の明るさを楽しむ方が心と体には健康的なのですね。



2016年3月17日木曜日

技と工夫のアーカイブ24 『風流感じる木組みの家』 〜熱循環のために〜


『風流感じる木組みの家』 竣工:平成26年11月



無垢材が長持ちする環境にするため、そして空調効率を高めるため、風通しを良くする工夫をいろいろ試してきました。
夏の暑い空気を外へ逃がす越屋根、1階の暖房熱を2階にも届けるため立ち上がり部分を開放にしたスキップフロア、欄間上部の開放、スノコ床、ルーバー壁
そしてこの家で取り入れたのは『油煙抜き』です。

1階の薪ストーブはこれ一台で家中の暖房をまかなえるほどの能力を持ちますが、スキップフロアがあり越屋根に面する2階廊下と寝室は仕切られるため、そのままではせっかくの暖房熱は寝室には届きません。そこで欄間くらいの高さに障子付きの油煙抜きを設けました。

『油煙出し』とも呼ぶそれは、室内に囲炉裏のある家で煙を外に出すための穴のことで、茅葺屋根に多く見られました。また、昔のろうそくは煙が多く出たのでそれを逃がす役目もあったそうです。
この家ではこうした特性を応用し、暖房熱を室内に呼び込むためのものとしました。

伝統建築の意匠を参考に、現代の住まいに役立つものにしていく。
そんな工夫をこれからも続けていきたいと思っています。


2016年3月11日金曜日

技と工夫のアーカイブ23 『風流感じる木組みの家』 〜妻飾り〜

 『風流感じる木組みの家』 竣工:平成26年11月






ここ数年応募している住宅コンクールで、4年連続受賞となる優秀賞を受賞した住まいです。つい先日、その授賞式がありました。

目的のない飾りは好きではありません。なので私たちが建てる住まいでは、外も内にも意味のない装飾は施しません。そんな中で唯一と言ってもいい装飾が妻飾りです。屋根の妻部分に掛けられるそれは、伝統建築の蟇股 (かえるまた) や豕叉首 (いのこさす)が原型で、かつては架構の意味がありましたが、現在の住宅建築では機能的な意味はほとんどなくなりました。
この住まいの妻飾りは、二つの円をモチーフにしました。二つの円弧がぐんぐん伸びてそれが大きな円になるように、家族の夢が育ち、つながり、幸せがいつまでも巡るようにと
願いを込めました。


角材をルーバー状に組み装飾性は極力排除したものの、和の住まいのいいアクセントになり、どっしりとした風格も増したのではないかと思います。また妻飾りを掛ける機会があっても、主張せず良い印象を助ける飾りにしたいと思います。






ちなみに、webで「妻飾り」と検索すると、アルファベット文字や鳥や花をモチーフにしたものがいっぱい出てきました。南欧風の家に多いようですが、私たちの住まいには到底似合いそうもありません。

2016年3月2日水曜日

創が目指すべきこと


この前の週末、創では久しぶりに完成物件の見学会を開催しました。
来場者数もほぼ目標を達成でき、会の関係者としてひと安心です。
そして今回は、数字以上に訪れた方々と中身の濃い対話ができ、充実した機会になったと思っています。

過去の見学会でも、無垢の木と自然素材の家に興味を持つ多くの方々にご来場いただきましたが、これまでのアピールが実を結んだのか、あるいはこうした家づくりへの関心が高まっているせいか、お客さんの質問や反応にはこれまで以上に緊張感があるように感じました。わかりやすく言うと、家づくりのあれこれに詳しい人や真剣に取り組む人が多いということ。木の家や自然素材についても明らかに理解が進んでいます。つまり、それと応対するつくり手は、ますますうかうかしていられなくなっているのです。
「被災地は住宅建築バブル」という人がいたら、それは実態を知らない者の戯言だと断言できます。お客さんは明らかに賢くなっているし、特に被災した人々は、無責任な狂騒に踊らされない知恵や覚悟も持っています。




来場したお客さんの中に、こんな話をしてくれた人がいました。
「ハウスメーカーの家はピンと来ない。かといって地元の工務店も違う」
その方はいくつものハウスメーカーを回り比較検討したが、希望に合う家が見つからなかったそうです。ひと言で言うなら「自分たちには不必要なものが多すぎると感じた」とか。挙句には、見積もりをお願いしたら伝えていた予算をはるかに超える額を提示されたそうです。

その一方で、地元の工務店も当たったそうです。しかし今度は欲しいものがない。こんな家がいいと写真を見せて説明しても反応が鈍い。
「地元の工務店は安心だけど、いまどきじゃない」。そう感じたそうです。

その方は創の家を見て、なるほど、うんうん、と連発していました。
創の見学会も本格的な木組みの家も初めてなので、どこがどういいか具体的な点を聞くまではできませんでしたが、他所に不満を感じていたこころに創の家づくりは確実に響いていたようです。




この方が、ハウスメーカーと地元の工務店に感じた過剰と不足。
今考えるとそれは特殊な例ではなく、現在の住宅建築業界に言えることではないかと思います。
最大公約数で家づくりをするハウスメーカーでは、すべてのニーズに応えられない。方や地元の工務店は技術面に注力し、それぞれのいまどきの暮らし方に見合った提案力に乏しい。
言ってしまえば現在の家づくりは、『帯に短し襷に長し』なのかもしれません。
もしそうだとしたら求められるのは、それぞれの帯にも襷にもなる技術やアイディア、そして提案力なのでしょう。

ハウスメーカーのアイディアと開発力を見習いつつ、培った技術と対応力でお客さんに安心と新しい暮らしを届ける。
言い古されているようでいながら、そこにはやはり取り組むべき普遍的なテーマがあるような気がします。





2016年2月18日木曜日

技と工夫のアーカイブ22 『素で自然とつながる家』 〜障子いろいろ〜

『素で自然とつながる家』 竣工:平成26年10月

今回はいつもと趣向を変えて、この住まいだけでなく、私たちが建てる家に取り入れた障子について紹介します。



まず、この住まいのために造ったのが吉村障子です。以前、このブログでも紹介した通り、框と組子の幅を同じにしたもので、これにより複数の障子を立てたときに全体で一枚の障子に見えるようにしています。障子なのにどこかモダンな印象があります。


こちらは組子を格子状ではなく縦のラインが際立つようにしたもの。
吉村障子のようにモダンというより、ちょっとクラシカルな雰囲気が漂います。
例えば掃き出し窓のような縦長の開口部に採用すると、繊細な感じに見えるかもしれません。





一方、『創の家』で採用したのは月見障子です。
これは掃き出し窓の開口を上下に分割し、上の部分を開けて室内から空を眺められるようにしたもの。その場合下半分は障子があるので、外部からの視線は遮られるというわけです。
この月見障子とは逆に下半分が開くのが雪見障子。室内から雪景色が眺められるようにします。




このように障子と言ってもさまざまな形があるし、断熱の役割を果たすほか、和紙を通すことで外からの光が拡散し、部屋全体を明るくするという効果もあります。
障子は和室の装飾のためだけにあるのではないのですね。


さて、創では2月27日と28日の二日間、完成物件の見学会を開催します。
『空を眺める家』と題したその住まいでは月見障子を採用しました。2階居室の南東面に面し、開放感も抜群です。
ぜひこの機会に、障子など建具の意匠をはじめ、技と工夫のあれこれをじっくりお楽しみください。


会場など詳しい案内は後日、創のブログでお知らせします。


2016年2月12日金曜日

技と工夫のアーカイブ21 『素で自然とつながる家』 〜木製枠のサッシ〜

『素で自然とつながる家』 竣工:平成26年10月


シンプルな箱型の家がいい、というオーダーに応えて生まれました。軒の出をなくし、屋根勾配をゆるくしたことで箱型が強調されました。ともすると素っ気ない印象になってしまいますが、造形のシンプルさはそのままに、見た目に木の家らしい温かみを与えるのが木製枠のサッシです。
最新の高い断熱性能を持つサッシガラスを、オリジナルで作製したサワラ材の枠で仕上げました。サワラは木桶などにも使われるように水に強いのが特徴で、雨にさらされる窓枠には最適です。気密性能はメーカーの樹脂製枠に比べると多少劣りますが、大窓の存在感と木の雰囲気は、家の佇まいに落ち着きを与えます。

天井高いっぱいで幅もだんらんの間の間口に匹敵するワイドさを持つこのサッシは、全開にして壁内に収納できるので、室内からは遮るもののない眺めと開放感が楽しめます。一方窓を全開にして外から室内を見ると、窓の高さと天井高が同じなので造形のシンプルさが際立つとともに、室内の眺めに奥行きが感じられ、部屋を実際以上に広く見せます。






2016年2月5日金曜日

技と工夫のアーカイブ20 『大屋根ささえる手仕事の家』 〜スノコ床とルーバー壁〜

『大屋根ささえる手仕事の家』 竣工:平成26年4月





木の家に長く快適に住むためには、風通しを良くしなければなりません。そのために工夫したのが、越屋根スキップフロアです。特に薪ストーブを入れる場合、その熱を2階まで行き渡らせためにも効果的。一方、夏場は熱や湿気がこもりにくくなるので家の空気を爽やかに保てるのです。この住まいではこの空気循環させる工夫を応用し、ある空間の機能を高めました。それはインナーバルコニーです。

玄関ホールの天井を見上げると、2階の床がスノコ状になっていて、一方の壁面もスノコと同じピッチ幅のルーバーになっています。つまり、壁一面と床が素通しになっていて、1階と2階のインナーバルコニーの空気が循環するようになっているのです。
大屋根にした都合上、外にバルコニーを設けなかったのでインナーバルコニーにしたのですが、閉鎖空間では空気がこもり、洗濯物を干しても乾きにくくなります。そこでスノコ床とルーバー壁にして風通しを良くしたのです。
見た目にも上部の圧迫感がなく、デザイン上のアクセントにもなっているし、開放感があるのが自慢です。